<夏休み読書第12冊目>
恋に死す
恋に死す

怖い絵」シリーズで
すっかりわがお気に入り、中野京子。
その彼女が古今東西の女性23人の様々な恋の有り様を語る。
元々、著者は西洋文化史が専門故、
この手の話題の引出しの多さは桁違い。

「怖い絵」同様、一人10ページにも満たない頁数で
要領よく簡潔に、しかし生き生きと人物を描写してみせる。
雑誌の連載を書き慣れているせいなのか
この分量の文章で、起承転結を見事に完結させ、
さらに余韻まで持たせる。
その筆致の見事さといったらない。

さて、本書。
恋の話。
年齢幅はなんと十代から六十代まで。
悲劇的なものから感動的な話まで様々。
中でも個人的に印象深かったのは、
マリア・スクロドフスカというポーランド女性。

彼女は貧しい家庭で母親代わりに世話してくれた姉を
大学に行かせるために、女子高を首席で卒業するも、
住み込みの家庭教師となり、給金の半分を仕送りする。
彼女自身の生活は極めて貧しく、
田舎生活も行き詰まりをみせる。

その中での唯一の希望は家庭教師先の長男(カジミール)との恋。
相思相愛で結婚を約束するが、
両親は「身分の違い」を理由に断固認めず、
カジミールも親の反対を押し切ってまで
愛を貫く勇気もない。
そんな中途半端な生活が六年間続き、途中自殺も考えるが
ついに彼女は彼を諦め、失意の中、姉のいるパリに向かう。

しかし、そのパリには将来の夫となるピエールが待つ。
さらにその後に、二度のノーベル賞という輝かしい名声が続く。
彼女こそ、のちのキュリー夫人である。

この失恋のおかげで我々はラジウムを手に入れることができた。
「必然」の失恋と後世の我々は簡単に言えるかもしれないが
彼女にしてみればそんな生やさしいものではなかったろう。

が、ハッピーエンドだからまだ救われる。
もっと悲惨な話も多数。

いずれの話も全く知らない話ばかりで興味深い事この上なし。
しかも中野による名文で楽しめる。
1600円は安い。必読。
☆×5