英文学者・評論家として有名な外山滋比古氏の作品に
大人であることの面白さ」という名エッセイがある。

詳しい内容はほとんど忘れてしまったのだが、(^_^;)
日本社会を上から目線で切り捨てる数多の評論家たちとは異なり、
自分も社会の構成員であることを自覚した上で、
柔らかに問題提起し、言語学者としての視点から
森羅万象を論じていた、ことだけは覚えている。

大学生の頃、この本を読んで、
「大人って面白い!」
「はやく大人になりたいものだ」
と、感激して読んだ記憶がある。
それほど感動したエッセイ。

さて、「がんばらない」。

著者の鎌田實氏は医者が本業。
ちょうど外山氏が、そのエッセイの起点を英語および言葉に
置いたのと同じように、鎌田氏は病院での体験に軸足をおく。
テレビドラマのように「瀕死の患者が九死に一生を得て、
奇跡的な回復を遂げる」というアンビリバボな話は現実の
医療現場では稀有なこと。

本エッセイで登場する人々も皆、最終的には
亡くなってしまうのだが、それでも読後感は
不思議なほどほのぼのとして温かい。
人が亡くなることは確かに身を裂かれるような切なさを
伴うが、鎌田氏の視線の温かさはそれを補っても余りある。

久しぶりに大人のエッセイを楽しめた。
30年近く前に外山氏のエッセイを読んだときの
読後感に似ている。
根底にあるのが、「愛」か「批判」かで
同じ事象を論じても伝わる印象は180度変わる。

私は下戸なので晩酌の楽しさは全く理解できないが、
おいしいワインを飲んだ後にはこんな疲労感と満足感
が入り交じったような心地よい感覚が味わえるのかな
と、勝手に推察している。(^_^;)

尚、本書はPodcast「学問ノススメ」が
また読むきっかけを与えてくれた。
鎌田先生の声がとても温かで、ぜひ著作も読みたくなった。
声の印象と著作の印象がみごとに同じだったことも
最後に付記しておきたい。


2009年度ブックレビュー#10