アカデミー賞受賞「おくりびと」誕生の
きっかけとなった作品。
今、最も旬な小説と言ってよいだろう。

納棺夫日記 (文春文庫)納棺夫日記 (文春文庫)
著者:青木 新門
販売元:文藝春秋
発売日:1996-07
おすすめ度:4.5
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とは言っても小説というにはちょっと抵抗がある。
日記と自伝と哲学書をブレンドした、
ノンフィクション的エッセイとでもいうのだろうか。

「納棺夫」の仕事と日常生活をドキュメンタリータッチで
描いた作品かと思っていたが、
予想より遙かに哲学的要素の濃い作品だった。

釈迦、親鸞、道元、さらに
ヘーゲル、アインシュタイン、キルケゴール、
はたまた宮沢賢治と、古今東西の偉人の引用多数。
それは第三章「ひかりといのち」に集中する。
非常にスピリチュアル度数が高い。

ただ「死」(ということは同時に「生」)を
哲学的・思弁的に論じているが、
江原さんのするスピリチュアルな話とは随分趣を異にする。
「霊」が実際に見える人と頭で考えている人の
相違であろうか!?
江原さん的な視点に慣れている者には少々頭でっかちな
感があるが、江原さんを好まないタイプの人には
頭で納得できていいのかもしれない。
読者の価値観によるだろう。

私的には江原さんの視点の方が納得がいくので、
むしろ「納棺夫」としての日常の方をより一層描いて
よかったのに、というのが正直な感想。(^_^;)

第3章を割愛したと言われている映画の方がむしろ
楽しみ。いつ送られてくるかな!?

ところで、主題からは離れるが、
本書で非常に興味深い事実を知った。
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災難に逢う時節には、災難に逢うがよく候。
死ぬ時節には、死ぬがよく候。
是はこれ災難をのがるる妙法にて候
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が、良寛さんの言葉であることは以前から
知っていたが、それが「三条の大震」の直後に
書かれた手紙の一節であるとのこと。(P.204)
知らなかった。\(◎o◎)/!
阪神大震災の渦中にこの手紙を書いたようなもの。
良寛さんの「たましい力」の高さに驚かされる。

あともう一つ。
「納棺夫」という言葉。
この言葉は辞書にはない。
著者の造語。
正確には、到着が遅れた著者が
親族から浴びせられた罵声から生まれたらしい。(P.16)
が、今回のことですっかり広く定着したので、
次の版の広辞苑には掲載されるのではないか!?

以上、余談。

2009年度ブックレビュー#34