前から光があたれば、後ろには必ず影ができる。
その時、「影」の方を強く意識するか、
「光」の側にあえて目を向けようとするかで
人は二分されると思う。

著者の薫堂さんはもちろん後者。
何か面白いことはないか?
楽しいことはないか?
人を喜ばせることはないか?
いつもその視点で物事をみる。

「カノッサの屈辱」しかり
「おくりびと」しかり。
「スノープリンス」も。
薫堂作品には、その方向からの温かな眼差しをいつも感じる。


さて、本書。
私には縁遠いA級グルメから
コンビニにある庶民派グルメまで。
幅広く「食」を語る。
美味しそうなカラー写真も多数。

しかし特徴的なのはどの文章からも
料理人に対する敬意と愛情を感じること。
上から目線の評論家のような態度は皆無。
彼の立脚点はいつもそう。だから愛される。

裏Futureで「おねだり」しても彼なら許される。
多少無理してもPino食べて、
ピノマイルを送って彼を喜ばせてあげよう、と思わせる。
「人生食堂100軒」をAmazonで買ってランキング上げてあげよう。
そう思わせる人徳が、彼にはある。
彼はもらっているようで、
それ以上のものをいつも周りに与えているから。
人は与えたものしか受け取ることはできない。

「食」の間に見え隠れする「人生」までも語る。
食はそのものの味以上に、
誰と、どういう風に食べるかが
重要なのだ。(P.90)
だから「人生食堂」。
読了後のこの温かな満腹感は何だろう。

2009年度ブックレビュー#100