Ordinary

日常生活の些細なことに幸せの種を見つけて楽しんでいる平凡なオヤジの視点

タグ:ブックレビュー2009

5
久しぶりに心震える小説に出会う。
まず、文体が小気味いい。
漢語を多用し、短文で畳み掛ける。
漱石のそれを彷彿させる。

神様のカルテ
夏川 草介
小学館 ( 2009-08-27 )
ISBN: 9784093862592
おすすめ度:アマゾンおすすめ度


主人公は、信州にある「24時間、365日対応」の病院に勤務する。
専門は内科医だが、地方都市の総合病院では
そんな悠長なことは言っていられない。
昼間の「内科医」の名札を夜間には「救急医」に付けかえて、
何でも対応する。いや対応せざるを得ない。

私の田舎でも、医者不足の問題は深刻。
市民病院は慢性的にベッド不足で、
入院すべき患者さんも早々に退院を余儀なくされる。
隣市はさらに深刻。
市民病院そのものがすでに緊急患者の
受け入れ拒否しており、救急車で30分以上かけて
わが市まで患者を運んでくる。
すでに飽和状態を超越している。

同じような状況下で働いておられる臨床医の方々の
苦労の実態を見事に描き出している。

それもそのはず。
著者自ら、信州大学卒業後、長野市内の地域医療に従事する、
現役の勤務医。
病院の現場で起こっているリアルな小ネタには
全く困らないはず。(笑)

厳しい地域医療の絶望的現実に折れてしまいそうになる一方で、
天使のような患者さんとの心温まるエピソードに心洗われる。

人には向き不向きがある。
大学で最新鋭の機器で最新医療の研究に携わるのが
向いている者もいれば、主人公のように
理想とは程遠い現場にいながらも、生の患者と触れ合い、
自分のできる範囲内でベストな治療を施すことに
喜びを見いだす者もいる。

私も後者を選びたい。
畑は全く異なるが、管理職となるよりも
生涯現役で現場に立っていたいと思う。

重いテーマを扱いながら、心温まる読後感。

本書は著者・夏川草介の処女作。
この作家は今後も追いかけていきたいと思う。

2009年度ブックレビュー#108

4
現代国語で誰しもが学習した5作品を俎上にのせ、
「指導書」的読み方をブッた斬る。

大人のための国語教科書  あの名作の“アブない”読み方 (角川oneテーマ21 A 107)
小森 陽一
角川書店(角川グループパブリッシング) ( 2009-10-10 )
ISBN: 9784047102149
おすすめ度:アマゾンおすすめ度

サブタイトルにある「あの名作のアブない読み方」とは
指導書に従わない読み方の意。
扱っているのは以下の5作品。
「舞姫」「こころ」「羅生門」「山月記」「永訣の朝」

いずれも有名な作品ばかりで、私も確かに現国で
学習したことを覚えている。
中でも山月記は漢語を多用した格調高い文体で
特に好きな作品の一つ。
主題である『臆病な自尊心』と『尊大な羞恥心』は
我々の仲間内では今でも時々冗談に使うフレーズ。(^-^)

さて内容は、指導書の一元的な見方に疑問を呈し、
多元的な見方の可能性を掲げる。
たった一つの「正解」を学校では教えられてきたが、
小説など読み方や感じ方など、読者の数だけあって
然るべきだし、そもそも指導書の「答」が「正答」である
根拠はどこにもない。
作者がかつて教えていた高校生の「意見」が載せられているが
その視点が斬新で面白い。

また余談的に語られる雑学が勉強になる。
「痔」という漢字が「寺」に「ヤマイだれ」がつく理由は
まさに目からウロコ。なるほど。(P.97)
これを知っただけでも本書を読んだ価値がある。

「こころ」の中に同性愛的側面が隠されている、
という指摘も初耳。
が、これはさすがに学校では語りにくい内容だろう。(^^;)

学校で習う内容は最大公約数的な事柄なので、
自分で興味ある分野を掘り下げていかねば、
何も身につかないだろう。
それは現国だろうと、英語だろうと、皆同じ。
学校の教科書の役割など、それ以上でもそれ以下でもない。

2009年度ブックレビュー#107

5
先日、DVDを見て感銘を受けたので、早速著作を読んでみた。

かぼ
石井 裕之
祥伝社 ( 2008-10-28 )
ISBN: 9784396613150
おすすめ度:アマゾンおすすめ度


「潜在意識」という用語はあまり多くは出てこないが、
彼の基本思想をうまく小説の中に溶かし込んでいる。
「心のブレーキの外し方」では、非常に論理的なスタンスで
話を進めていたが、本書は全く異なるアプローチ方法を採っている。
どちらかというと江原さんのスピリチュアル講話に近い。

たとえば、こんな輪廻転生の話。
人間は何度も生まれ変わる。そして、いろいろな人生を経験する。
どんなに幸せに恵まれている人だって、かつては辛い人生を生きたかもしれないし、
どんなに不条理な死に方をした人も、
次にはものすごく愉快な人生が待っているかもしれない。
(P.119)

彼の思想の根っこはおそらくこちらのスピリチュアルな面にある。
しかしそれを全面に出してしまうと、「摩訶不思議な」世界に迷い込んでしまうので、「論理」のタガで自らを締め付けている。

素直ってのが意外に難しい。
行き過ぎると迷信になっちゃうからね。
自分を失って、怪しげなものに依存するようになっちゃう。
だからちゃんと地に足をつけて、物質世界を健全に生きながらも、同時に神さまのことも聞けるような素直さをもつっていうのはね、これはかなりのバランス感覚が求められるんだよね。
(P.50)
これは自分自身への戒めとも読める。

ただこのスピリチュアル思想の上に
「潜在意識」の話がのっているので、石井さんの話は
私には非常に受け入れやすい。
逆に言うとスピリチュアル視点を持たない方には
彼の理論は全く胡散臭いものに聞こえるだろう。
アマゾンのレビューで低評価を付けている人は
そのあたりがどうしても受け入れがたいのだろう。
人それぞれなのでそれはそれでしかたがない。(^^;)

ボクの言葉が、染みこむように純平の心に入っていくのはなぜだと思う?
それはね、ボクが話してきたことが、すべて純平の中に最初からあったからなんだよ。
だから純平、思い出せばいいだけなんだよ。
難しくなんてない。
昔信じていたものを、ただ思い出そうとするだけでいいんだ。どこかに置き忘れてしまった宝物を探す旅のようなものなんだ
(p.118)
もともと自分の中に「それ」を持っている人は理解できるし、
持っていない人には、何度か輪廻を繰り返さない限り、
決して理解できないことだろうから。

どんなに回り道をしたとしても、やはりすべては光へと導かれている(P.163)
そう信じているからこそ、私は何があっても笑って生きていける。

越智啓子先生の言われるように
すべてはうまくいっている!!
のである。(*^^)

2009年度ブックレビュー#106

5
子供服で有名なミキ・ハウスの創業社長、
木村皓一氏の自伝的エッセイ。


ファションブランドには全く無知な私でさえも
この名前とその服の雰囲気だけは何となくわかる。
それだけでも大したもの。(^^;)
彼一代で築きあげたというのだから、
その経営センスと努力は桁外れ。
しかしそれ以上に、人としての心根の素直さと
清らかさに感動する。
大事なのは人柄です。これからの時代には、
人柄がよくないことは、致命的になってしまう。
(斎藤一人著『愛のセラピー』)

一人さんの哲学の正しさを証明するような方。

また個人的には
教育によって本人も学び成長する部分もあるでしょうけど、
本質的にはそんなに大きく変わらない。・・・
今までいろいろな人間を使ってきて、人というのは、
その人にあった立場になったら成長する。

の一節が印象に残った。

何にも向いていない人はいない。
人は必ずきっと何かに向いている。
その向いている何かを見つけて、その任務を
与えることが上司たるものの責任である、と。

経営者の本というより、教育者のようなそれ。
「ミキ・ハウス」には今後も注目していきたい
と思う。

2009年度ブックレビュー#104

5
「奇跡のリンゴ」でお馴染みの木村秋則氏の著作。
勘違いされている方が多いが、奇跡のリンゴ
は、木村さんを扱っているが、木村さんご自身の著作ではない。
表紙がよく似ていて間違えやすいが、こちらは正真正銘、木村氏作。

すべては宇宙の采配
木村 秋則
東邦出版 ( 2009-07 )
ISBN: 9784809408045
おすすめ度:アマゾンおすすめ度

無農薬・自然栽培のりんごですっかり有名となった木村氏だが、
本書では、りんご完成までの経緯も語っているものの
それ以上に、彼自身がこれまで実際に体験してきた「不思議体験」
の数々を赤裸々に告白している。
「龍」「UFO」「幽霊」「地球最後の日」etc
こんなこと書いていいの!?というような事まで。
読む人によってはとんでもない話ばかりだろう。(^-^;
私自身はUFOにも幽霊も遭遇したことはないが
いくつかの神秘体験もあるので、
その手の話には何の違和感もない。
さもありなん、の思い。
不思議な話が好きな方には宝石箱のような面白さ。
一気に読了できた。ヽ(=´▽`=)ノ

逸話の数々に木村さんの地球規模での「調和」を愛する心が見える。
生かされていることを彼は自らの人生をもって証明してみせる。
「奇跡のリンゴ」の話も一部語られているので、
その話を知らない方でも充分興味深く読めるだろう。

彼は「使命をもった人」であることがよくわかる。

2009年度ブックレビュー#103

4
絵と書き文字でまとめた書画集。


高校国語教師による書画集。
「叱り」にテーマを絞っているのが特徴。
「怒り」でなく「叱り」。
生の感情をぶつけるのではなく、
根底に相手に対する愛情・思いやりをこめる。

今の私に特に響いたのはこれ。
ものの始まり、ものの出だしが大切さ
それで姿勢が決まる 心が決まる
肝心なのは終わり方
どんな風に終わるのか
どんな形で終わるのか
最初が大切 最後が肝心
書画の間に、コーヒーブレイク的に
学校生活でのエピソードが書かれている。
これが結構面白い。
教師生活の一コマを垣間見ることができる。

著者の教え子に爆笑問題の太田光がいたそうで
彼の高校時代の興味深い逸話が書かれている。
文化祭での一人芝居。
本文自体よりこの話に一番引き込まれたのは皮肉。

2009年度ブックレビュー#102

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