Ordinary

日常生活の些細なことに幸せの種を見つけて楽しんでいる平凡なオヤジの視点

タグ:怖い絵

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傑作「怖い絵」シリーズで有名な中野京子氏の映画エッセイ集。
102コの映画を紹介している。
私はこの人の文章には目がない。(笑)

恐怖と愛の映画102 (文春文庫)恐怖と愛の映画102 (文春文庫)
著者:中野 京子
販売元:文藝春秋
発売日:2009-07-10
おすすめ度:4.5
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もともと「母の友」という月刊誌の中の1コーナー。
映画評論というほどの大げさなものでなく
映画の印象的なシーンに触発されたショートエッセイ。

とは言っても、そこは達文家の中野氏のこと。
至る所にキラリと光る名文を目にすることができる。
ただ雑誌の制約上からか、一話が3ページに
制限されているため、「怖い絵」ほどの
深い洞察と惚れ惚れするような文章リズムを
堪能できないのはちょっと残念。

ところで、本書で紹介されている102の映画のうち
私が実際観たことある作品はたった10本。\(◎o◎)/!
10%ほどしか観ていない。
これでは人生もったいない。
残りの作品も皆ぜひとも観たくなる。

読者にそう思わせてしまうのは、
これもまた中野マジックというべきだろうか!?

2009年度ブックレビュー#63

5
私の大のお気に入り、中野京子氏の新刊。
怖い絵シリーズ第3弾。
本書が「完結編」である、
とあとがきにある。

怖い絵3怖い絵3
著者:中野京子
販売元:朝日出版社
発売日:2009-05-28
おすすめ度:5.0
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無味乾燥な文学史が、加藤周一氏の「日本文学史序説」によって、
興味深い体系的な書物に変化したように、
絵心も美術史の知識が皆無の私でも、
中野氏の「怖い絵」シリーズを読むと、
その絵の怖さを理性的に理解できるようになる。

第3弾ともなると、大抵マンネリ化し、
論点も刺激も鈍くなるのが一般的だが、
著者の場合、その筆法は全く衰えず、
読者を楽しい知的旅路に誘ってくれる。

博覧強記はいまだ変わらず、
レトリックは冴え渡り、文章のリズムが心地よい。
美術史を学びながら、
気品ある音楽聞いているような楽しさ。
まさに究極の知的遊戯。
読書の贅沢ここに極まる、といって良い。

内容も、表現技法共々楽しませてくれる作家は極めて少ない。
私にとって、中野氏はその二つを同時に満たしてくれる、
貴重かつ稀有な作家の一人。
一体どこまで我々を楽しませてくれるのか!?
中野氏の知の懐の深さこそが「怖い」!

美術シリーズはここで一区切りのようだが、
彼女の著作は全部読みたい。
こんな本も見つけたので
早速購入したみた。

名作映画が彼女の手にかかると、どう料理されるのか?
期待大。
夏休みの楽しみがまた一つ増えた。(^^)V

2009年度ブックレビュー#54

5
マリー・アントワネットが生きた時代(1755-1793)
の前後100年間を舞台にした歴史の豆知識。
ベルばらKidsぷらざ
に掲載された話を一冊にまとめたもの。

危険な世界史危険な世界史
著者:中野 京子
販売元:角川グループパブリッシング
発売日:2008-08-01
おすすめ度:4.5
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著者は「怖い絵」で有名な中野京子氏。
私は彼女の文体とリズムが大好き。
これまで彼女の本は4-5冊読んだが、
裏切られた例はない。
私の中では最も信頼できる書き手の一人。
そして今回もまた十分楽しませてもらえた。

フランス革命前後の100年間、ということは
絶対王政、血みどろの革命、市民の台頭と
世界史上最も激動の時代のひとつ。
その時代の、教科書でおなじみの人物、
マリー・アントワネット、ナポレオン、
モーツァルト、ルイ14世、マリア・テレジア等々の
教科書では語られないエピソードが興味深く語られる。

愉快なエピソードも多数。
19世紀中頃までイギリスには公衆トイレがなく、
「人間公衆トイレ」なるものがあったという。
夏でも大きなコートに身を包み、バケツを持って立つ。
客がそのバケツで用をたす間、コートで隠してやる仕事。
なんという辛い仕事だろう!?

堅い話から軟らかい話まで、
中野の筆力で縦横無尽に語り尽くす。
決して上から目線でなく、
かといっておちゃらけてもおらず、
絶妙の品の良さと博覧強記で読者を知の旅に誘う。
世界史好きにはたまらない一冊。
社会科の先生なら絶好の授業のネタ本になること請け合い。
息子の担任の社会科の先生にも薦めたいくらい!?(笑)

元々ネットに公開されたものなので
1話が大体2-3ページで完結。
ちょっとした時間の合間に読める点もよい。

今月末には「怖い絵3」が刊行されるとのこと。
楽しみがまたひとつ増えた!!\(^o^)/

2009年度ブックレビュー#44

5
<夏休み読書第12冊目>
恋に死す
恋に死す

怖い絵」シリーズで
すっかりわがお気に入り、中野京子。
その彼女が古今東西の女性23人の様々な恋の有り様を語る。
元々、著者は西洋文化史が専門故、
この手の話題の引出しの多さは桁違い。

「怖い絵」同様、一人10ページにも満たない頁数で
要領よく簡潔に、しかし生き生きと人物を描写してみせる。
雑誌の連載を書き慣れているせいなのか
この分量の文章で、起承転結を見事に完結させ、
さらに余韻まで持たせる。
その筆致の見事さといったらない。

さて、本書。
恋の話。
年齢幅はなんと十代から六十代まで。
悲劇的なものから感動的な話まで様々。
中でも個人的に印象深かったのは、
マリア・スクロドフスカというポーランド女性。

彼女は貧しい家庭で母親代わりに世話してくれた姉を
大学に行かせるために、女子高を首席で卒業するも、
住み込みの家庭教師となり、給金の半分を仕送りする。
彼女自身の生活は極めて貧しく、
田舎生活も行き詰まりをみせる。

その中での唯一の希望は家庭教師先の長男(カジミール)との恋。
相思相愛で結婚を約束するが、
両親は「身分の違い」を理由に断固認めず、
カジミールも親の反対を押し切ってまで
愛を貫く勇気もない。
そんな中途半端な生活が六年間続き、途中自殺も考えるが
ついに彼女は彼を諦め、失意の中、姉のいるパリに向かう。

しかし、そのパリには将来の夫となるピエールが待つ。
さらにその後に、二度のノーベル賞という輝かしい名声が続く。
彼女こそ、のちのキュリー夫人である。

この失恋のおかげで我々はラジウムを手に入れることができた。
「必然」の失恋と後世の我々は簡単に言えるかもしれないが
彼女にしてみればそんな生やさしいものではなかったろう。

が、ハッピーエンドだからまだ救われる。
もっと悲惨な話も多数。

いずれの話も全く知らない話ばかりで興味深い事この上なし。
しかも中野による名文で楽しめる。
1600円は安い。必読。
☆×5

5
<夏休み読書第11冊目>
怖い絵2
怖い絵2

先週読んだ「怖い絵」が非常におもしろかったので
ただちに2巻目を注文。即読了。
相変わらず、中野京子氏の筆は冴えわたる。

漢語を多用し、冷徹な論理性と客観的鑑賞眼を
保持しつつ、時々「そんなの関係ねぇ」(笑)
といった流行言葉を入れる遊び心も忘れない。
そのバランスが絶妙。(^o^)

「絵画」より「文章」が好きな私としては
名画はなくとも、彼女のその文章だけで十分楽しめる。
格調高い名随筆を読んでいる気分。
それほど私には心地よい。
私が上戸であれば、ワインでも傾けながら読みたい。
最高の贅沢なひとときになるだろう。

彼女の文章を読むと、つくづく「知識は力なり」を痛感する。
彼女の説明を読む前と後では、同じ絵でも
全く見え方は異なる。
「知識」はそれほど人生を楽しく、また豊かにしてくれる。
それを再認識させてくれた。

その圧倒的な知識量と気品ある文体の前に
私はただただ感動。そして脱帽。
彼女の作品は全部読んでみたい。(=^0^=)
むろん、★×5。(^^)V

5
ご存じの方はご存じのように、
私は美術は大の苦手である。(笑)
そんな私でも中学の時は内申書を何とかしないと
いけないので、実技がダメな分、ペーバーテストで
得点すべく定期テストの美術史(有名な作品と作者)
を必死で覚えたものだ。

「エドガー・ドガ」といったら「踊り子」
というのもその当時覚えた知識のひとつ。
ただ中学の教科書ゆえ、細かな歴史的背景など
書かれておらず、私自身「ドガ=踊り子」
と機械的に丸暗記していたに過ぎない。
ちなみにこんな作品

今回読んだ「怖い絵」の中の1作目にこの絵が紹介されていた。

当時は「ドガという人はバレリーナが好きなんだなぁ」
位にしか考えていなかったが、実はとんでもない深い背景が
あることを知る。

バレエというと現代では芸術の極致のように考えてしまうが
この作品が描かれた当時、バレエを上演するオペラ座は
「上流階級の男たちのための娼館」だったというのだ。
そして当然、その娼館に常駐している娼婦が、
踊り子だった。\(◎o◎)/!

元々バレエはオペラの添え物で一段格下と見なされていた。
まともな女性なら長いスカートをはいていた時代に
脚を見せて踊る。
そんな彼女たちを芸術家と考える者などいなかった。
踊り子志願の少女たちはほとんど全てが労働者階級
だったという。

そんなことを知って、先の作品「エトワール、または舞台の踊り子
に目をやると、書割の陰に佇むこの男はパトロンであることがわかる!
踊り子の首に巻かれたリボンの色が紳士の服と同じ華やかな黒で
描かれていることにも気づく。
まるで金で縛られていることを象徴するかのように。

心霊写真のように一瞥してわかる「感覚的」怖さでなく、
一見何の変哲もないが、その背後にある歴史的背景・
社会的事象を理解したときに初めて理解できる、
「理性的」な恐怖である。

20の絵とそれに続く解説文の構成で絵の背後に隠れた
「怖さ」を紹介する。絵そのものを知らなくても
解説文だけで十分な楽しめるほど語られる内容は濃い。
それほど著者の博覧強記と文章能力は卓越している。

本書は日高晤郎のPodcast「私の本棚」で紹介されて知った。
内容の乏しいものに関しては情け容赦のない彼も
本書は絶賛していた。

帯にも「名画の見方を借りた、知的でスリリングな文学体験」
とある。言い得て妙である。

最後に。
著者はブログも開設しておられる。
中野京子の「花つむひとの部屋」
ブログ故、上記「怖い絵」ほどの文体のヒネリはないものの
著者の上品さとお人柄は十分伝わる。
浜口京子選手に関する最新エントリーも私も全く同じ感想を
持っていたので妙に親近感を覚えたことも付記しておく。

<夏休み読書第9冊目>
今回は「心の栄養」というより「脳の刺激」。
久しぶりに知的興奮を味わいつつ楽しめた本。
文句なく、★×5。(^^)V

怖い絵

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